東京高等裁判所 平成6年(行コ)221号 判決 1995年12月20日
控訴人(原告) 堀内由美子 外九四名
被控訴人(被告) 東京都新宿区長 東京都新宿区助役 東京都新宿区収入役
主文
一 本件控訴をいずれも棄却する。
二 控訴費用は控訴人らの負担とする。
事実
第一申立て
一 控訴人ら
1 原判決を取り消す。
2 本件を東京地方裁判所に差し戻す。
二 被控訴人ら
主文同旨
第二主張
当事者の主張は、次のとおり訂正、付加するほかは、原判決の「第二 事案の概要」に記載のとおりであるから、これをここに引用する。
一 原判決二枚目裏七行目の「原告らは、」の次に「平成五年六月一四日、」を加え、同九行目の「平成五年」を「同年」と改める。
二 原判決四枚目裏五行目の「日本」を「「戦地にある軍隊の傷者、病者の状態の改善に関する一九四九年八月一二日のジュネーブ条約」、「海上にある軍隊の傷者、病者及び難船者の状態の改善に関する一九四九年八月一二日のジュネーブ条約」、「捕虜の待遇に関する一九四九年八月一二日のジュネーブ条約」及び「戦時における文民の保護に関する一九四九年八月一二日のジュネーブ条約」に基づいてわが国」と改める。
三 原判決五枚目表四行目の「文化財」の次に「(文化財保護法二条一項一号)」を加える。
四 原判決八枚目裏六行目の「とは、」の次に「同項一号に定める」を、同九行目の次に改行して
「 ちなみに、これまで「回復の困難な損害を生ずるおそれ」を明確に訴訟要件と解した判決は存在しない。大阪地裁昭和五五年六月一八日判決や大阪高裁昭和五六年五月二〇日判決は、「回復の困難な損害を生ずるおそれ」が実体要件であることを明示し、東京地裁昭和五五年六月一〇日判決や山形地裁昭和六三年四月二五日判決は、「回復の困難な損害を生ずるおそれ」の有無の判断により差止請求訴訟を認容し、大津地裁昭和四四年四月九日判決、高松高裁昭和五一年三月二四日判決、千葉地裁昭和五八年三月二三日判決及び東京高裁昭和五八年六月二日判決は、「回復の困難な損害を生ずるおそれ」の有無の判断により差止請求訴訟を棄却しており、いずれもこれが実体要件であることを明示ないし前提としている。
また、右「回復の困難な損害を生ずるおそれ」という要件は、株主の差止請求権(商法二七二条)等の民事一般の差止請求権の要件とされている文言及び行政処分の執行停止(行政事件訴訟法二五条二項)の要件とされている文言とほぼ同一であり、その趣旨も、事前の差止めの場合にはその必要性のある場合に限るとする点で同一であり、その必要性の判断も、損害の実態に立ち入り、差止請求の対象の行為との因果関係も判断し、その行為を行った場合の利益と差し止めた場合の利益とが比較衡量される点でも同一である。したがって、右「回復の困難な損害を生ずるおそれ」も、株主の差止請求権等の差止請求と同様、実体要件と解すべきである。
さらに、「回復の困難な損害を生ずるおそれ」の有無を判断するには、損害の内容や金額、違法性の有無や程度の判断が不可欠であり、かかる判断は当然に実体的判断を要することからも、地自法二四二条の二第一項柱書中のただし書にいう「回復の困難な損害を生ずるおそれ」とは、差止請求訴訟における実体要件であると解すべきである。
そして、地自法二四二条の二の規定中には、手続に関する規定もあれば、一項本文の「違法な行為」、「怠る事実」、同項ただし書の「当該職員の利益の存する限度」等実体的判断を要する規定、すなわち、実体要件を定めた規定もあるのであるから、「回復の困難な損害を生ずるおそれ」も実体要件を定めた規定と解すべきである。」
をそれぞれ加える。
五 原判決一一枚目表一〇行目の「市長村」を「市町村」と、同裏一行目の「充つる」を「充てる」とそれぞれ改める。
第三証拠<省略>
理由
一 当裁判所も、控訴人らの本件訴えは不適法であり、これをいずれも却下すべきものと判断する。その理由は、次のとおり訂正、付加するほかは、原判決の「第三 争点に対する判断」に記載のとおりであるから、これをここに引用する。
1 原判決一四枚目裏三行目の「規程は、」の次に「訓令であり、地自法一四条、一五条にいう条例、規則ではなく、」を加える。
2 原判決一六枚目表五行目の「訴え」から同七行目末尾までを「同項柱書本文が、地方公共団体の住民は同法二四二条に定める住民監査請求をした場合においてその結果に不服がある等一定の要件を満たすときに同法二四二条の二第一項各号に定める類型の住民訴訟を提起することができる旨、前記行政事件訴訟法四二条を受けて、住民訴訟を提起できる者及び住民訴訟を提起できる場合を定めているのに続いて、「ただし、第一号の請求は、当該行為により普通地方公共団体に回復の困難な損害を生ずるおそれがある場合に限る」と定めているのであって、その規定の位置及びその文言から見て、右ただし書は本文において定めた住民訴訟を提起できる場合を限定する趣旨の規定であると解するのが素直な解釈である。」と、同八行目の「同法」を「地自法」とそれぞれ改める。
3 原判決一七枚目表一行目の次に改行して
「 控訴人らは、「回復の困難な損害を生ずるおそれ」の有無を判断するには、その前提として差止めの対象とされる行為の違法性の有無の実体的判断が不可欠であるから実体要件と解すべきであると主張するが、右損害を生ずるおそれの有無を判断するに当たり、差止めの対象とされる行為が違法であると仮定した場合に当該行為により当該地方公共団体にどのような損害を生ずるおそれがあるかを判断することは可能であるから、右主張は、採用することができない。」
を加え、同四行目の「予防し」を「予防又は是正し」と、同八行目の「損害」を「財産上の損害」とそれぞれ改め、同九行目の次に改行して
「 そして、差止請求訴訟が、前述したところから明らかなように、違法な財務会計上の行為を事前に予防又は是正し、もって、地方公共団体が右財務会計上の行為により財産上の損害を被ることを未然に防止することを目的とするものであることにかんがみれば、右にいう損害は、差止めの対象とされる財務会計上の行為によって直接地方公共団体に生ずる当該財務会計上の行為と相当因果関係のある財産上の損害をいうものと解するのが相当である。」
を加え、同一〇行目の「もっとも」を「また」と改める。
4 原判決一九枚目表八行目から同裏二行目までを
「 さらに、控訴人らは、区が十分な調査をしないまま本件人骨を火葬又は埋葬すれば、本件人骨の遺族らから区に対して損害賠償請求訴訟を提起され、区が損害賠償債務を負うのは必至であり、また、その応訴のため長期間にわたり労力と費用を要することになり、区に回復の困難な損害を生ずる旨主張する。しかしながら、前記のとおり、ここにいう損害とは、差止めの対象である財務会計上の行為により直接普通地方公共団体に生ずる当該財務会計上の行為と相当因果関係のある財産上の損害をいうのであり、本件支出負担行為等についていえば、本件人骨処理費として計上されている四四五万五〇〇〇円が支出されることによる損害、すなわち、右金額相当額であるというべきであり、控訴人らが右に主張するような損害は、本件支出負担行為等と相当因果関係のある財産上の損害ということはできない。」
と改め、同裏六行目の「不可能となり、」の次に「、区の名誉、信義を毀損し」を、同八行目の「損害は、」の次に「抽象的・非財産的な損害を含まず、」をそれぞれ加える。
二 よって、控訴人らの本件訴えを却下すべきものとした原判決は相当であり、本件控訴は理由がないから、これを棄却することとし、控訴費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法九五条、八九条、九三条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 石井健吾 吉戒修一 大工強)